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週末の夜 [思うこと]

昔の恋人に会った。

すぐに気がついた。

あの特徴的なくるくるヘアーは、そんじょそこらにいるものではない。

週末の夜、騒がしいライブハウス。

音楽と笑い声、お酒と煙草の煙に満ちあふれた人だかりの中、

懐かしい後ろ姿があった。

 

この8年間、

なんせ一度も鉢合わせることがなかったものだから

本当に驚いた。

驚いたけれど、

呼びかけてわざわざ振り向かせることもないと思い、

気配を消しながらカウンターに近づき手早くビールを受け取ったが、

同行した友人、天然のまっちゃんが普通に声をかけてしまったので、

あっさり逃げ場を失った。


自分でも、かなり引きつった顔をしていたと思う。

久しぶり、とか、元気?とかいう類いの言葉を交わした。

それから、おめでとう、も。

彼は、震災の年に結婚していた。

散々だったであろう私との終末の日々を経て、

彼は本来の彼に戻り、

新しいパートナーと出会い、

また新しい日々を積み重ね、決断したのだ。


大きな目、

鼻にかかった声、わざとからかうようなしゃべり方、

懐かしいというよりむしろ新鮮だったのかもしれない。

それくらい、当時の記憶があまりにも遠すぎて、

何かを思い出す隙さえ与えられないままライブが始まった。

ビートルズの陽気なナンバーが響く。


帰り際にも、また少し話しをした。

話し・・・、できてたのかな。

あれから爆発的に猫が増えたよ、とか、

車の運転が少しはマシになったよ、とか、

音楽や旅や写真や、共通の友人の近況やあの頃通ったお店、

話したいことが後から後からこみ上げてきて息が苦しくなったけれど、

全くうまく繋げられなかった。

不自然な間がいくつもできた。

人ごみの中でよかったのかもしれない。

あの頃、

無限の時間、無数の感覚をどんなに濃く深く共有していたとしても、

今はもう、私のパートナーではない。

それがすべてだ。

そんな当たり前の事実の重み、というか苦み、をビシバシ感じながら、

手を振り背を向けて、階段を降りた。

彼の目に今の私がどんなふうに映ったかは知らない。

そもそも自業自得なわけだし、だからといって

過去を振り返って立ち止まるのはなんかめちゃくちゃ悔しいし、

などと心の中でぶつぶつ言いながら、

おぉ、私もまだ女っぽいとこあるやんけ、と自嘲したのだった。


こんな偶然はたぶんもうないだろう。

お詫びとお礼くらいちゃんと言えばよかったな。

東京から戻ってしばらく、抜け殻みたいだった私が、

周囲も驚く程むくむくと元気になったのは彼のおかげ。

生活スタイルや価値観の違い、ワガママや思いやりや、

無謀な夢や醜い嫉妬、くだらない笑いなどなど、

何から何まで共有、共鳴し合い、常に支えてくれていた。

私には彼、彼には私しかあり得ない、と本気で思っていた。

可愛らしい、無敵だった二人。

そして今では、きっちり過去のこと。箱の中だ。

・・・アカン、また恨み節モードに(笑


そうそう、それに何より、

地元で根を張って歌い続けるきっかけをくれた人だった。

そして、

大人が真剣に遊べばそれが仕事になると信じ合った人だった。

どうか元気で、

これからもそんな仕事をしていてほしいと思う。



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